無口なイケメンは好きですか。


今回はこの2冊の感想です。

シンデレラ・ティース (光文社文庫)

シンデレラ・ティース (光文社文庫)

モップガール (小学館文庫)

モップガール (小学館文庫)


なぜ2冊まとめてなのかと言えば、「主人公が若い女性」「パートナー(探偵役であることも)が同じ職場の若い男性」「話の中心は職場絡み」「短編集」といった点が共通したからです。
というわけで、その共通項ごとに2冊を書き出してみたいと思います。一応、ネタバレがちらっと出るかも、注意!



「主人公が若い女性」

  • シンデレラ・ティース」の主人公は、女子大生の「咲子」。幼い頃のトラウマで歯医者が怖いのに、歯科医院で夏休みの間、受付嬢のバイトをすることになった。流されやすい性格の自分をどうにかしなければ、と思っている。
  • モップガール」の主人公は、バイトを点々としている20代の「桃子」。自分の“天職”は何なのかを探しているうちに、とある清掃業の会社でバイトをすることになる。時代劇マニア。

二人とも、周りから「サキちゃん」「桃ちゃん」と呼ばれる辺りから見ても、どこか「お嬢さん」然としている印象。桃子の方がちょっとだけサバサバしてるかな?(時代劇マニアが集う居酒屋で飲むシーンがちょくちょくあるw)

「パートナーが同じ職場の若い男性」

探偵役だったり、主人公と一緒に調べ回る役回りは、同じ職場の若い男性です。

  • シンデレラ・ティース」では、主人公と同じ歯科医院で働く歯科技工士の四谷さん。最初の方は、口数少なくてちょっと変わった人。後半はデレる(語弊ありw)。石膏を削るせいでいつも粉まみれ…だけど、実はよく見ると整った顔立ち。主な探偵役は彼。
  • モップガール」では、主人公と同じ清掃会社に働く翔。ただし遅刻早退無断欠勤が多い。無口で無表情でそっけない。時代劇マニアな主人公の好みではないが、線の細い整った顔立ちの今どきイケメン(?)。主人公と現場を調べまわる。

何、この共通項w
ただ付け加えると、四谷さんは歯科技工士としての腕は確かだし、主人公の咲子との関係性も穏やかなほのぼのした感じになっていきます。泣いてる咲子を見た四谷さんが、驚いてどうしていいか分からずに大量の医療用脱脂綿を積んだりするシーンは、読んでて萌えましたw
対する翔はと言えば、最初から最後まで態度が軟化しないんだよねぇ。ずっとツンツンなんだ。これなら、同じ会社の重男や、途中で出会う南さんのが全然男として魅力的なんじゃないかと思うんだが、主人公の桃子は悪態つきながらも翔が気になる…という、この無口+イケメンのコンボ・マジック!まぁ一応、翔はトラウマ持ちという設定があるからなんだろうけど、それにしたって性格悪くね?これじゃ社会人としてやっていけなくね?というレベルなので、ちっとも桃子に感情移入は出来ませんでしたw

「話の中心は職場絡み」「短編集」

  • シンデレラ・ティース」では、主人公の咲子が働く歯科医院にやって来る患者にまつわる謎を、四谷さんが歯科医療的な目線から解き明かす。
  • モップガール」では、清掃現場に残された死者たち(死んでない人もいるので「たち」)の思念*1を主人公の桃子が感じ取ることで、左耳の聴覚が利かなくなる代わりに視覚・嗅覚・味覚などに事件の手がかりが入ってくる。それを元に事件を調査する。

ということで、前者はいわゆる“日常の謎”系の推理短篇集ですね。ワケアリっぽい患者さんについて咲子がふしぎに思っていると、四谷さんがサラリと解き明かしてくれるという。その中で、自分のやりたいこともよく分からず人に流されてばかりだった咲子自身にも変化が現れていくという、読後感が非常に爽やかな作品でした。
後者も推理短篇…なのかもしれませんが、桃子にふしぎな能力が備わっていることを考えると一概に推理と言っていいものか…と思っていたら、巻末の解説で、宮部みゆきさんの「霊験お初シリーズ」にもふしぎな能力のある女性主人公が挙げられていたので、いいのかな?個人的には、謎の解明には論理と証拠でぶつかる方がフェアだとは思うんですが、そんなこと言ってたら「逆転裁判シリーズ」出来ないですからねw*2 加藤実秋さんの持ち味は、明快な論理の筋道とか人間的成長の物語性とかって言うよりは、その軽快で躍動感のある文体だと思うので、エンターテイメント性は高いと思います。
また、それぞれの職場にいる人々ですが、「シンデレラ・ティース」の歯科医院では、色っぽくて姉御肌な歯科助手の歌子さんや、お昼を奢ってくれる太っ腹な院長などの存在が目立ってるかな?一方の「モップガール」では、売れない役者で元ヤンの重男、ギャルの未樹、そしてとにかく犬を偏愛している社長。この人たちが実に個性が強いw 脇役の個性まできっちり主張してくる感じは、加藤さんの既刊「Club Indigo シリーズ」を思い出させます。

総評?

  • シンデレラ・ティース」…読後感が良い。一冊を通してきれいにまとまっている。穏やかな気持ちで一気読みできる。…ただ、若干印象に残りづらいかも。
  • モップガール」…読ませる力が強い。おかしな脇役たちに取り込まれて、主人公さながらにいつしか作中の世界に入り込む感じ。…翔についてどう思うかは読者次第かもw

 

*1:「清掃現場に残された死者たちの思念」なんて書いてますが、桃子たちの清掃会社は、殺人現場や飛び降り現場などのワケアリの現場も清掃するからです。

*2:霊媒で先輩弁護士が法廷に来てくれるとか、ふしぎな勾玉を持ってると心の中の鍵を解き明かせるとか、ふしぎな腕輪の力で嘘をついていることが見破れるとかw